©︎Satoshi Shigeta/繁田諭写真事務所
翼を広げた鳳凰のように本堂の両側に広がり、その仕上げは後光のように本堂を包み込む菱の外壁。
インドの仏典の中に、竜の怒りを鎮めるため、女の子をいけにえとして捧げる代わりにヒシの実を差し出したという説話があり、また、中国では、菱の実だけを食べて長生きしたという仙人の伝説もある。さらに、日本では、万葉集に『君がため浮沼(うきぬ)の池に菱摘むと』と詠まれているように、少なくとも奈良時代からヒシの果実を食べていたことが分かる。
菱形には厄除け魔除けの意味があり、仏教と共に伝わった袈裟にも類似の柄を見ることができ、池や沼で取れる一年草のヒシの実や葉を図案化したものとされ、家紋としても平安時代には、すでに成立している。ヒシの一種である中央アジアや南アジアに広く分布する『Trapa bispinosa(トラパ・ビスピノサ)』は、インドの美と繁栄の女神ラクシュミーの好物であると言い伝えられ、このラクシュミーは仏教で取り入れられ吉祥天(きちじょうてん)となったと言われている。吉祥天は、福徳安楽(繁栄と幸運を意味し、幸福、美、富を表す)、五穀豊穣を与える仏法を護持する天女。
煩悩を食らうとされる鳳凰が衆生の心を清浄にする菱の翼を広げ、お釈迦さまの後光を浴び、この町で最も天に近い高台に位置する当寺から、たくさんの人々と見渡す限りの田畑に豊かな実りをもたらし続けてくれることを切に願うものである。