©︎Satoshi Shigeta/繁田諭写真事務所

数十年経った今でも、瞳を閉じると聞こえてくる。この本堂前の円の中心に祭壇が設けられ、真龕(棺や遺骨)を安置する前に、列を成して周ったあの日の記憶と足音。先々代、先代住職の本葬儀。

また、今では、少なくなった野辺送りという儀式。野辺(のべ)とは、元来、墓地を意味し、土葬の時代には、親戚縁者が隊列をなし、棺を担いで、墓地に送り届けた。この生まれ育った町に別れを告げるためである。現在もその名残が残っている。そう、『告別式』である。本来の意味は、遺された者たちが、『別れを告げる』のではなく、故人が出家するために(葬儀とは、亡くなって出家するための儀式、没後作僧という)、世俗に別れを告げるというものである。土葬から火葬への変遷に伴い、野辺送りという儀式が変容し、斎場にて火葬を行ったあと、本堂で儀式を行う前に、この円上を周るようになった。

時の流れと共に失われていくものは、この世の中には、たくさんあることだろう。しかしながら、形は失われても、かすかに残る記憶と心に響く大いなる足音を感じる世界がここにはあると信じ、本堂前旧庭園の円相の再現した。