UNDER THE SNOW:雪の下

UNDER THE SNOW:雪の下

春の訪れを私たちに 真っ先に感じさせてくれるのは 梅の花であろうと思います。論語より はじまったとされる めでたきものとしての松竹梅、日本でも 平安時代の貴族たちは、四季の移ろいとともに その自然の色彩を繊細に感じとり、特に 清らかな雪に包まれた 品格のある色を装う梅の花は、厳(おごそ)かであり、慎ましやかであり、その静謐(せいひつ)な世界に心を奪われていたことは、現代を生きる私たちにとりましても、想像を巡らすことは 容易であり、自然に対する畏敬の念を頂くとともに、苦しい日常や日々の辛さの中に、私たちの肩を そっと押してくれるよう、時に 励まされることさえあると、私自身考えさせられます。

 

ひと昔前に、ご縁を頂き 大切なご家族のお葬儀の読経の依頼を頂きました。葬祭会館からのご出棺をなされた直後に、喪主であられた80余年の奥さまから、こんな言葉を頂戴致しました。

「うちのおじいさん 若くてイケメンの住職さんに 拝んで頂いて 本当に幸せです」と、まぶたに ため込んだ涙をこぼすことなく、笑顔で そっと私に語りかけてくれました。数年後、この言葉を おかけ頂きました奥さまが 目を落とされ、ご遺族のお嬢さま お2人から、「母は、若い頃から そして 90歳を越えても いつもオシャレで 若い男の人が好きでした(笑)。父のお通夜とお葬式の時に 住職さんが、それぞれ着ていた着物を見て、母は 本当にオシャレだといい感激してました。」という お言葉を頂戴致しました。

特に、このような文章でのお話しになりますので、誤解があってはいけないと存じますので、あえて 記載申し上げますが、私は 確かに 20代前半から住職をしておりますので 当時 「若さ」は ございましたが、残念ながら 決して イケメンでは ございません。容姿に関しましては、父と母には、非常に申し訳ないのですが、むしろ コンプレックスが たくさんございます。

また、当寺は、檀信徒数も 非常に少なく、祖父も父も お寺だけでは 生活が成り立たず、兼職をしながら生活をし、家族を養ってくれました。私が 住職になって間もない頃、絹織りの着物を一式揃えることすら出来ず、「本物を着なさい」と、よく怒られてきました。私も一人の人間ですので、恵まれない環境にいたことに対して、憤りを感じたこともありましたが、それ以上に、一挙手一投足に恐怖を感じることや、目の前のことに向き合うことだけで精一杯の日々でした。本当に 少しずつ 少しずつ 買い足していった正絹の着物たち。ただ「正絹」という素材、「柄」が自分の好みであるというばかりでなく、どのように着こなすせば 美しく見えるか、どのように歩けば より美しく見えるか 今でも よく考えます。ただ ただ 座って お経を お唱えするばかりでなく、動作に関わる着物さばきを考え、私は 生地の重さも考慮します。これは、ただの自分の好みや自己満足の世界のお話しではなく、たとえ 20代の若輩であっても、私を温かく支えて下さる人生の大先輩である お檀家の皆さまへの敬意と 人としての礼節を保つための 私なりの流儀だからです。

 

本来 「清貧」であるべき僧侶としての立場の私という人間が、時代の流れの速さと世の中の雑踏に紛れ、365日いつでも 自分自身に厳格にいられるかと言えば、残念ながら そうではございません。そして、その故に、「運命」という とても細いけれども 決して切れることのない 長く強固な その糸が、このお寺に 私の生を与え 僧侶の道を歩ませたのは、出来の悪い私という人間を「人」として 道を踏み外すことなく、大切なことを「時に」しっかりと胸に刻ませるために、両親、さらには お仏さまが 私に用意してくれた場所なのだろうと思います。好きなことばかりするな・・・など・・・と(笑)。

 

平安時代から愛しまれてきた「雪中の梅花」は、今もなお その美しい光景が 私たちの心を魅了し続けると同時に 本当に大切なことを そっと私たちに語りかけてくれる自然界の恩恵であり 人生の教科書であると思います。表が白で 裏が薄紅色。真っ白な雪と その下にある紅梅の「重(かさ)ねの色目」。

そう ご存じの皆さまも おられるかと存じますが、うすいピンク色の名称です。『雪の下』何とも美しい表現でないでしょうか。

 

久しぶりのホームページの更新となりました。長々と拙い文章となりましたが、ご高覧頂きましたこと、衷心より厚く御礼申し上げます。3月17日(日)から 23日(土)までの 1週間、春のお彼岸となります。お檀家の皆さまは もとより、カフェ・テラも 営業しておりますので、どうぞ 気軽にお問い合わせ下さいますようお願い申し上げます。尚、明日3月19日(火)は、15時まで満席となっております。

お檀家の皆さまには、個室は ご用意致しておりますので、ご遠慮なく ご休憩ご歓談等下さいますよう重ねてお願い申し上げます。

 



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です